声のない湯呑一ツの夜となり
(昭和13・父、文夫の死に際し)
みな焼けてしまってははの灰ばかり
(昭和20・母、隆の3月10日東京大空襲での爆死)
足跡のやっぱり誰か来たところ (昭和25以前)
男の子どこからとなく砂が落ち (昭和26−28)
みんな行ってしまって丸太が一本 (昭和30)
茹でたらうまそうな赤ン坊だよ (昭和33)
影法師いちどは俺に跨がせろ
さまァ見ろと向ける顔の中の岩盤
無才無能の時計に毛が生えている
逆光線乞食羅漢のように立ち
桃の中の虫の恍惚で死のう
春の陽へ掌をひろげれば掌にも春
俺にも吠えたい夜があるんだよ犬
小便の泡まるく輝き−いのち
忘れてはいけないもので山が動いた
人生は楽しい話りんごむく
これ以上の返事のしようがあるか馬鹿(昭和51年、166号表紙) |