川柳を「あたま」で書かないこと――これは鉄則ともいえる心得です。どんな題材でも、現在、過去にかかわらず、かならず作者の〈目〉を濾過した風景、直接自分が立ち会った事象を踏まえて発想されなければ、見かけだけはは巧みに飾られていても、読むものの心へ響きません。
「あたま」で書いた句は、理屈になりやすく、また空想やウソにもなりやすく、どこかシラジラしい印象を与えがちです。
それに反して、見かけは稚拙でも体験に根ざした本音、肉声は、常にプラス・アルファとして作品に実在感を与えます。
「松のことは松に聞け」という言葉がそれで、松そのものを見ることなく「あたま」だけで描いても、けっして真実の姿はとらえられないということです。
まず、ひとつの対象をさまざまな角度から見る、心をそこに置いて見る、その本質が見えてくるまで目を離さない、こうした過程は、読者の内側に再現され、追体験されます。従来、佳句と称されるものが、例外なく〈目〉のよく利いた作品であることが、それを証明しています。
川柳は「〈目〉で書く文芸」なのです。
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