江戸時代、3月5日は特別の日であった。奉公人が雇用期限を終えて、入れ替わる「出替り」日である。
三月五日いぬおさん門出よし 樽四九‐37
3月5日は吉日で、お産も旅立ちも良いということ。奉公が終わるということは、別の意味で別れの日でもある。
出替りの乳母は寝顔にいとまごひ 樽四四‐13
子守に雇われた乳母も、この日をもって年季明けとなり、せっかく慣れ親しみ、愛情さえ覚えるようになった主方の坊ちゃん、娘ちゃんとも別れなくてはならない。せめてと、寝顔にお別れを言う乳母の姿は、多少の心残りと淋しさを伝える。
下女もまた、この日を限りに奉公を終わる者がいる。
そちは二世あれは三月四日まで 樽四八‐27
は、まったくひどい。下女に手をつけた主人の浮気がばれた。女房に問い詰められた主人は、「あなたは二世の契り、あいつは、3月4日で終いだ」と言い訳をしている。江戸の男は、どうも女房には頭が上がらないらしい。
同じ下女でも、
昼ばかりつとめて下女ハ重年し 拾遺二‐23
という尻の軽くない者は、お内儀にも信頼厚く、継続して奉公をする「重年(ちょうねん)」になることもあった。
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