定型感 ていけいかん

 5・7・5という三句態が部分的に崩れていても、定型の持つリズム感を保っている作品は、定型として扱われます。
 これには、三句態のそれぞれの音数(五音または七音)が、多い場合と少ない場合とがあり、総音数(十七音)もまた、多くなったり少なくなったりしますが、基本的な気息や格調は定型と変わらない感じを与えます。
 定型感の字余り字足らずは、あくまで部分的な増減で、基本的に同じ比重(もしくは時間)で構成されている三句態のバランスが崩れない限りにおいて成立するということです。
 だから、5・5・5、7・7・7でも、定型感を保ち得ますが、三句態のうちのどの一部分かが極端にバランスを崩すと、気息が破綻し、三句態そのものが成り立たなくなり、定型感は失われることになります。

a)字余り

例)[頭重]

   ・今日を生きたどれほどの価値夕日見る   (6・7・5)
   ・ガラスの罅(ひび)に心あたりのある別れ (7・7・5)

 

例)[脚重]

   ・すぐに止む霙(みぞれ)の中を歩いている  (576)
   ・雲去来夫婦の皺を数えに来る                 (576)

 

例)[多音数定型感]

   ・方程式でぶつかってくる女が光る     (777)
   ・春一番部屋いっぱいに俺が居ない   (676)

 

例)[中八]

   ・馬死んでひとみの深さへ落ちてゆく   (585)
   ・火にもなる若さが平和に朽ちてゆく   (585)

中八
 句渡りなどを含まない三句態で、中句が八音となり、総音数が十八音の句を「中八」と呼ぶが、例句はいずれも音脚が4・4(四拍子もしくは二拍子)の八音で、全体としてのリズムを崩さないばかりか、独特の格調を持っている。
 「中八」というのは、それが一句の働きとなる場合で、いたずらにリズムを壊したり、マイナスにしか作用しない場合は、「中八」ではなく、失敗作である。

 

b)字足らず

   ・地図よ 夫婦の遠い日を灯せ   (3・7・5=15音)
   ・何もありはしなかったいい手相   (4・7・5=16音)