うがち (穿ち)

 古川柳の文芸的特性、三要素のひとつ。ウガつとは、穴をあけること、転じて表面的には見すごされがちな事実を掘り出して示す、江戸後期の流行語で「穴を言う」すなわち欠陥や弱点を指摘する意味に用いられるようになった。世態・人情の機微をウガつ目の位置は、洒落本や黄表紙など江戸の市民意識が定着する過程で生まれた文学一般に共通する特性であるが、同じ前句附でも、初代川柳評にいたってこの特性が顕著に見られるようになったのは、一八世紀半ばの興行開始が、江戸という都市のアイデンティティ確立と道程を一にしていたことに理由が求められる。ウガチの対社会的態度は、ある距離を置いて対象をながめる覚めた客観性であり、日常の中の矛盾やアンバランスを、感情をまじえず取り出してみせる。卑俗化や暴露はウガチの目に引き出される知的な笑いの源をなしているが、それがあくまでも写実のすがたで描かれるのが特徴。ウガチの目は、現代では風刺的アングルとして、特に時事作品に顕著に受け継がれている。
穿ちの方法論としては、下降的不調和や曝露などがある。


   

A:誰でも常識として持っている知識。穿ちのベースになる省略の部分。
B:誰でも知ってはいるが、忘れているか、日常は忘れられている知識。
C:限られた人だけの知識。
D:個人的経験か特定の知識
B’:穿ち―句に表現される部分

       
  神風豚や羊の反吐を吐き
  A:「神風」→元寇・蒙古襲来、文永・弘安の役、軍勢十万
  B:蒙古人の生活様式、食習慣など
  B’:「豚や羊の反吐」類型化、写実的イメージ化による喚起→穿ち

〈穿ち―写実〉
  相性は聞きたし年は隠したし
  添乳して棚に鰯がござりやす
  女房のじれるほどには持てぬなり
  畳屋は軽い箪笥を重くもち

〈穿ち―風刺〉
  唐本は駕篭に乗る時ばかり入れ
  仏師屋をしても弘法喰えるなり
  代脈はヤンマを逐つた小僧なり
  政治家は落語家よりも笑わせる 幻道