●狂句の例 《隠語》
野や草を江戸へ見にでる田舎者 〔柳多留31篇、文化元年〕
・ 野や草を見に江戸へと意表を衝く狙い。
「野」=上野
「草」=浅草 という隠語が解ればそれだけのもの。
●狂句の例 《虚実》
鼻を見てたるみを付ける股引屋
[句案十体例句から]
・ 世間一般の言い習わしを下敷きに、縁語(たるみ―股引)仕立て。
●狂句の例 《半比》
伊豆ぶしも八代迄ハだしがきゝ [初代点から]
・ 伊豆武士 → 伊豆節。だしの懸け詞と縁語。
●狂句の例 《比喩》
怠らず学べ遣はぬ桶は 漏り
[句案十体例句から]
・ 使わない桶は漏れるという喩え話
●狂句の例 《隠語》
亀四匹鶴が六羽の御縁日 〔柳多留54篇、文化8年〕
・ 「亀」の寿命→万年。「鶴」の寿命→千年。4匹の亀と6羽の鶴を足すと
「四万六千日」。すなわち、浅草寺の縁日。
●狂句の例 《隠題》
新場から小田原町へ鳩が飛び
[句案十体例句から]
・ 新場、小田原町という地名はどちらも魚河岸。魚河岸から魚河岸へ何故…。
この新場が浅草寺の本堂に吊るされた提灯と解けば、新場から寄進された
提灯(名前が書いてある)から鳩が飛び立ち、小田原町の提灯にとまるという
謎解き。浅草寺の連想が主眼のコトバの面白さ。
●狂句の例 《隠題》
島へ島偲んだ果は島の沙汰 〔88篇、文政8〕
・ 芝居にもなった奥女中の絵島と歌舞伎役者の生島新五郎の情事。
生島は八丈へ遠島になったことからの語呂あそび。しかし、仕立ては実に巧い。
●狂句の例 《本末》
その後道灌簑箱を持たせられ [句案十体例句から]
・ 武蔵野で太田道灌が夕立に困り、路辺の田舎家を訪ねたところ、農家の娘が
山吹一枝を黙って差し出した。この意味を道灌には解らない。少女は、
七重八重花は咲けども山吹の みの一つだになきぞ悲しき (拾遺集)
を下敷きに、山吹を出した。「実の=蓑」から「ひとつだに無き」、蓑は無いという
ことが解らなかった。この不勉強を恥じ、道灌は歌の大家になったというが、
川柳家は、「故事の本末」として茶化す。
道灌も金を貸せかと初手思ひ
も、黙って手を出されたのでそう思ったろうという想像句。さて、少女は、
気の利かぬ人と山吹おいて逃げ [柳多留25篇]
となったろうと、川柳家の目は、対象を追いつづける。
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